プリズムの煌めきの向こう側へ

二次元アイドル・アニメ・声優あたりの話題中心で、主に備忘用のメモ

『ラストマイル』

とある物流センターから発送された荷物が次々爆発するという連続爆破事件が発生。流通業界の労働問題などを絡めたサスペンス映画。

『アンナチュラル』や『MIU404』と同じスタッフ、同じ世界観の作品。

どちらの作品も以前見ていて好きだったので、見たいと思っていた作品だが、結局、映画館では見ておらず、配信できたので見た。 

アンナチュラル - プリズムの煌めきの向こう側へ

MIU404 - プリズムの煌めきの向こう側へ



明らかにAmazonをモデルとした巨大物流企業デイリーファーストの西武蔵野ロジスティクスセンターが舞台

満島ひかる演じる舟渡エレナがセンター長として着任してくるところから、物語は始まる。

(だけど、映画としては、まず爆発シーンを冒頭に置いている。開始5分も経たずに爆発シーンがあって、ツカミがよいというか、展開早いと思った)

実は、満島ひかるを見るの初めてな気がするのだけど、エレナという役の演技がとてもよかった。というか、当初『シン・ゴジラ』の石原さとみ的なアトモスフィアもなくもないというか。実際の外資系企業の人のことよく知らないけれど、外資系企業に適応しきった人物のイメージを見事に表現していて、主人公なのだけど、前半はめっちゃ怪しい人物として活躍している。

アッパーなテンションで、部下に対してフランクさを強要し、株価を気にしながら、半ば強引にバリバリ仕事を進めていく。

1日目からいきなりセンターに泊まり込むのだが、翌日、テントやら着替えやらパーティグッズやらを大量に並べている。自社製品を全部自費でポチったのだ。

部下の航に対して、自社製品で何が欲しいと訊ねる。何も要らないと答える航に対して、全部欲しいと答えるエレナ。明らかに両極端な2人。

ただ、エレナが、愛社精神が強烈なエリート社員かといえば、そうではないことは徐々に明らかになっていく。

彼女の地味な面白ポイントとしては、比喩が下手くそ、というのがあったりする。

また、彼女の物欲の激しさは、子ども時代に親からプレゼントをもらえなかったから、というところに起因していたらしい、というところもある(ここは深掘りされない)。

また、彼女は社訓(カスタマー・セントリック(お客様中心))に、ある種の欺瞞があることを知っており、それを「マジック・ワード」と呼んで、そこから一定の距離をとっている。

中盤になると、彼女が過労で心を病んで休職しており、今回のセンター長就任が復職と同時だったことがあかされることになる。

そこから彼女は変貌していき、(センターの稼働率維持ではなく)事件解決へと向かっていくわけど、とにかく、まず前半では、外資系企業に過剰適応したワーカーホリックとして、そして徐々に、むしろワーカーホリックを演じているような人物として、ついには、そこからも脱していくというプロセスが熱演されている。

全てをやりきった彼女がパトカーで爆睡している、というのが、彼女の最後のシーンとなるのだが、全てやりきったという彼女のドラマのラストに相応しいシーンと思った。

ところで、この映画自体はそこで終わるわけではなく、解釈の難しい感じで2人の登場人物をそれぞれを映し出して終わるのだけど、このあたり、単純な解決では物語を終わらせなかった『MIU404』とも通じるところを感じる。

連続爆破事件そのものは一応の解決をみるものの、その背景である労働問題・社会問題は(ごく僅かに解決の兆しを見せるものの)ほとんど温存されているわけで、これまでも社会派なテーマを扱ってきたこの制作チームならでは、のところだと思う。

 

『アンナチュラル』は法医解剖医、『MIU404』は警察官と、事件を解決する探偵役としては適切な職業の者が主人公であったが、今回は主人公が大手物流企業の社員、という点でどうなるのかな、と思ったが、そこもなかなか見事なところだった。

事件が起きて警察がやってくる。主人公たちは警察への協力を要請される。ただ、警察の協力に唯々諾々と従うと業務が完全に滞ってしまう。そこでエレナは、警察に協力しつつも業務も維持する策をひねり出すわけだが、つまり、主人公は当初、必ずしも事件を解決する探偵役として動くわけではないのだ。

主人公たちが扱っている品物の中に、未発見の爆弾が紛れている以上、彼らもまた事件解決へのインセンティブはあるわけだが、かといって探偵役を買って出るような立場でもない。

自社の取扱い商品の中に爆発物を入れられた、という点では被害者のポジションでもあるが、警察の捜査に必ずしも全面的に協力しているわけでもない、という点ではむしろ加害者的な面だってないとはいえない。

それでいて最終的には、物流倉庫のシステムを一番理解している立場から事件解決のための最後のピースをはめる、まさに探偵的な役どころも果たす。

主人公がたんに探偵役というわけではなく、物語上の様々なポジションに次々と変化していく、というのが物語の展開とあいまって、スリリングであったと思う。



さて、この作品は、同時に複数の視点で物語が進んでいく群像劇的なプロットをもつ。

(1)物流企業組

主人公のエレナ、その部下で岡田将生が演じる航、この2人は主にセンター内にいる。

加えて、エレナの上司でディーン・フジオカが演じる五十嵐。彼は東京本社にいて、エレナと電話でやりとりしている。

さらに、運送を担当している羊急便で管理職をやっている八木(阿部サダヲ)がいて、彼はエレナからの無茶振りに翻弄され続ける。

(2)警察-1

『アンナチュラル』『MIU404』の登場人物でもある、大倉孝二演じる毛利と酒向芳演じる刈谷がタッグを組んで、捜査を行っている。エレナたちのところに訪れて(1)物流企業組と警察とを結ぶ役割だが、他の関係者への聞き込みなども行っている。

(3)MIU404組(警察-2)

爆発現場や被疑者と目された人物宅への家宅捜査などを行う。桔梗隊長が、所轄の署長になっており、この事件の捜査本部長ともなっている。事件捜査の要を占めるけれども、物語全体においては、あくまでもパーツの一部でもあって、このあたり、MIU404組の活躍もかつてのドラマファンとして楽しめるけれど、映画全体としてはあくまでも脇役にとどまるという案配がうまい。なお、前述の毛利・刈谷組とは、捜査本部会議で同じ席上にいるシーンはあるが、直接絡むようなシーンはなかった(と思う)

(4)アンナチュラル組

事件の影響で物流が滞り始める頃、その影響を受けている人たちの1つとして登場するが、後半では、被害者の解剖を通じて事件解決の一端を担う。久部くんが研修医になっていたりしたのが嬉しい。久部くんや、薬師丸ひろ子演じる弁護士は、毛利・刈谷の聞き込みの対象になっていたりもする。

(5)ドライバー親子

羊急便の宅配ドライバーをやっている親子。火野正平演じる父親と宇野祥平演じる息子。父親はずっと宅配ドライバーをやっていたが、息子はもともと家電会社の社員。会社がつぶれたため、父親の手伝いを始めた。ドライバーの労働問題(高齢者がになっていることやその労働環境の悪さ)を具体的に見せているパートであるが、物語の本筋とも徐々に関わり始め、最後には、ある活躍もみせる。

(6)シンママ家庭

夫と離婚したばかりで、娘2人を育てるシングルマザーの一家。母親と娘(特に長女の方)との不和、幼い次女の謎の行動など、彼女らのストーリーも並行して描かれていくが、これが本筋と合流するのは最後の最後、となる。

だいたいこの6つのグループが並行して動いている、という感じ。

基本的に(1)の人たちの話なので(1)が一番多いが、それでも色々な人たちの物語が並行して描かれていくのはやはり面白い。(5)と(6)が本筋に合流するのは最後の方だが、そこでいくつか伏線回収があったりする。