プリズムの煌めきの向こう側へ

二次元アイドル・アニメ・声優あたりの話題中心で、主に備忘用のメモ

橋本悠『2.5次元の誘惑』感想戦

 

というわけで、『2.5次元の誘惑』を一気読みしてしまったので、感想戦行きます

基本的に1回通しで読んだだけなので、色々抜けやら間違いはあるかもしれないと思うけれど。

 

概要

ジャンププラスで連載されているラブコメ漫画で、ジャンプによくある微エロラブコメ枠っぽいマンガ。いわゆる「鈍感」主人公の「ハーレムお色気ラブコメ」もの、みたいな感じで始まるのだが、多くの人が「ハーレムお色気ラブコメものだと思ったら違った!」と言っており、またWikipediaの概要にもあるように途中から路線変更している。

ハーレムラブコメではありつつも、コスプレをテーマにした青春ものになっている。

奥村という高校生が主人公で、彼は根っからの2次元オタクで3次元の女の子には一切興味がなく、1人で漫研をやっている。そこに新入生のリリサという子が現れ、奥村にエロ含むコスプレ写真を撮って欲しいと頼むところから、物語は始まる。

奥村は3次元の女の子に興味がないので、目の前でいわゆる「ラッキースケベ」があっても反応しない(だからリリサは奥村を選んだ)のだが、リリサがコスプレするリリエルというキャラクターは、彼が小学生以来ずっと好きでい続けているキャラクターで、彼女のコスプレ姿に不覚にもドキドキしてしまう。さあ一体どうなる、という風に始まる。

さて、その後の展開というか方針転換については、上記のるいべえさんのnote記事で解説されているが、リリサのちょっとエロいアプローチに振り回されるという話ではなく、2人でコスプレ道(?)を突き進むという展開へと変わっていく。



本作は大雑把にいうと、初期(リリサ・美花莉登場)→初イベント参加編(Magino・オギノ登場)→コススト編(まゆり先生・753登場)→ノノアとの出会い→アリアとの出会い→夏コミ編(レモン&ライム、エリカ登場)→合宿編→副会長編(まりな登場)→冬コミ編(夜姫登場)、という感じに進む

リリサ、美花莉、乃愛(ノノア)、アリア、まりなが一緒にコスプレする、いわば主人公パーティ

またこの世界には、コスプレ四天王というコスプレ界の頂点的な存在がいて、それが753、まゆら(=まゆり先生)、淡雪エリカ、星月夜姫の4人。

おおむね以上の登場人物たちが、リリサと出会うことで自らの問題と向き合い変わっていく(初心を思い出す、自己実現を果たすなど)という感じ

夏コミ編と冬コミ編が特に面白く、今無料で全話公開されているのだけど、とりあえず直近の冬コミ編だけ読んでみる、というのもアリといえばアリ。

 

バトル漫画っぽいと言っても、もちろん物理的に戦うわけでもないし、何か勝敗を決めるようなシステムがあるわけでもない。

一応、753などは、イベント時に自分の周囲にカメコが集まる、いわゆる「囲み」の大きさを競いあっているところがあり、そこで勝ち負けが言われたりすることもあるし、登場するコスプレイヤーのある種の「強さ」をマンガ的にわかりやすく表現する方法として囲みの大きさが使われてはいる。

ただ、そういう見た目の「強さ」でバトっているわけではなくて、むしろ、それぞれのコスプレ観でバトっているというところがある。

この世界にはコスプレ四天王というのがいるのだが(なお、オタクが勝手にそう言っているだけw)、それぞれコスプレをする目的・動機が異なっている。

リリサは、色々なコスプレ観があることを知り、それにショックを受けたり感銘を受けたりしながら、自分なりのコスプレのやり方を極めていくし、また、リリサと出会った四天王の側もリリサに感化されていく、というのが、なんかバトル漫画っぽいのである

コスプレ、文字通り変身で、衣装に着替えてイベント会場に登場するシーンが、見開きでバーンと描かれるので、それがバトル漫画的な技の見得っぽいところもあるかもしれない。



さて、ここでアイマスっぽいというのは、リリサと奥村の関係で、2人はレイヤーとカメラマンという関係なのだが、アイマスにおけるアイドルとPの関係に似ている。

レイヤー(アイドル)の魅力を引き出し、注目を浴びる場へと連れて行くカメラマン(P)という感じ。

リリサと奥村は、第三者から見れば付き合ってるようにも見えるし、実際互いに恋愛感情を持ち始めているのだが、一方で2人はレイヤーとカメラマンという関係上(またそもそも奥村は3次元に興味がないからエロい写真も任せられるということで始まった関係であるので)、自分のそうした感情を抑制しようとしている。しかし、単に恋愛感情を抑制しているというだけでなく、2人には確かに非恋愛的な、目的に向けたパートナーシップがあり、それによる信頼関係も築いているところがある。

アイマスというのもそこらへんが似ている。アイマスは、アイドルによって恋愛寄りになるタイプとあまりそうでないタイプがいるが、(疑似)恋愛関係と非恋愛的な仕事的な信頼関係のどちらともつかないような関係にアイドルとPを置く。

アイマスは、まだ初期の頃、アイドルジャンルが確立されていなかった時代には、ギャルゲー(恋愛SLG)扱いされた(というかゲームシステム的には実際差がないと思うが)ことがあり、アイマスPの中には、しきりにギャルゲー(恋愛もの)ではないということを主張する(していた)者もいるのは、ゲーム上、少なくとも恋愛成就は目的になっていないので、非恋愛的な信頼関係・パートナーシップの可能性が、アイドルとPの間にはあるからだと思う。

もちろん二次創作を見れば、アイドルとPが恋愛関係になっているものは無数にあるわけだが、しかし互いに恋愛感情を抱いていないタイプもやはり多い。

で、非恋愛的なパートナーシップをもたらしているのは、トップアイドルになるという共通の目的で、その目的のために他のアイドルたちと競い合うことになり、アイマスにも「バトル」もの的な要素はあるのである。

頂点を目指すべく、男女が協力して互いに恋愛感情とも似た信頼関係を築き上げながら、ライバルたちと切磋琢磨していくドラマ、というように抽象化すると、まあわりと似ているのでは、と。



ここから先は、ネタバレあり、すでに読んだ人向けに書いている。

まだ読んでいない方向けには、例えばffiさんの記事など

note.com

 

夏コミ編のこと

 

上記概要で「初イベント参加編→コススト編→ノノアとの出会い→アリアとの出会い→夏コミ編→合宿編→副会長編→冬コミ編」と書いたが、以下では夏コミ編、合宿編、冬コミ編の感想を書いていこうかなと思う。

まず、夏コミ編は、正直上のツイートに尽きるのだが、それではあんまりなのでもう少し。

夏コミ編は、アリアを中心にしたエピソードとなっている。

非オタクではなく陽キャギャルのアリアが、有名なコスプレイヤーになりたいと言ってリリサたちと出会うところから始まる。一体、陽キャギャルのアリアがコスプレをやろうとする理由は一体何なのか。

というのは割とすぐに明らかになるのだが、実は彼女の父親が漫画家なのである。彼女がまだ小さかった頃、ジャンプでの連載を始めるのだが、パクリ批判にさらされ打ち切り。その後、新作を書けなくなり、離婚に至る。アリアからは連絡がとれなってしまった父親に対して、パパもパパの漫画も嫌いだと言ってしまったのが最後の言葉になってしまった。有名なレイヤーが自分の作品のコスプレをしていたら、どこで何をしているか分からない父親も見てくれるかもしれない、と。

で、まあ色々あって最終的に感動の再会にいたる、という話

登場人物が号泣するので、それにもらい泣きして泣いてしまうというところもあるのだけれど、創作物というのが巡り巡ってどんな風に人を支えていくのか、という話にオタクは弱い(?)ので思わず涙してしまうラストとなっている。

で、ここでコスプレ/2.5次元というのが効いている。予想がつくと思うが、アリアは父親の漫画のキャラクターのコスプレをして父親と再会するわけで、実の娘とキャラクター(自らの創作物という意味で娘的な存在)とが同一人物の中に二重写しとなる。

2.5次元というのは、その作品の世界の中に入り込んだような、あるいはその作品の世界が現実化したような経験をもたらすわけだが、そのことがアリアの父親に対してこの上なく効果的に働くシーンとなっている。

 

合宿編のこと

 

奥村は、カメラマンとして自分に足りないものを手に入れるために、皆と海へ合宿へと行くことになる。

つまるところ、奥村に課せられた課題は、3次元の女の子にも興味を持つことである。コスプレ(2.5次元)とは、2次元のキャラクターを3次元の人間に宿らせることであり、3次元側にも興味を持たなければベストショットは撮れない

そしてそれは、相手と自分との相互の関係の中から生まれる。

奥村は、過去の母親とのトラウマで、女性から自分に向けられる感情を全て無視するようになってしまっている。それこそが彼のハーレムもの主人公としての「鈍感」さをもたらしている(ちなみに彼は、彼から相手に感情を向けることは躊躇しない。作中では、それが相手に対する献身的な態度として成立しており、彼がモテる要因となっている)。

彼は意識的に、その「鈍感」さを捨てることを選ぼうとするのである。



さて、ここで美花梨の話

美花梨は、奥村とは幼なじみの関係で奥村に対して10年間片思いをし続けている。奥村を振り向かせるためにモデル業を始め、そちらではかなりの有名人だが、奥村は二次元オタクなので全く効果なし。美花莉自身は全くの非オタだが、奥村がリリエルのコスプレをしたリリサに惹かれ始めていることに気付き、自らもコスプレをするようになる。

幼なじみツンデレツインテール美少女で(まあ登場人物みんな美少女ではあるのだが、美花莉は特に際立って可愛いという表現がされている)、ある意味で負けヒロイン的なポジションなのかもしれない。

さて合宿編において、睡眠不足により日中に寝オチしてしまった奥村に、美花莉が2時間付き添っているシーンがある。

2時間も待っていてくれたのかと驚く奥村に対して、「10年待ったんだもん」とつぶやく美花莉の表情が、とても幸せそうで、美花莉のベストショットではないかと思う。

しかし、物語的にはこの後からが面白い。

美花莉は、リリサに対して自分が奥村に片思いしていることを告げるのだが、それがリリサに対する牽制になってしまうことに気付き、発言を取り消す。しかし一方でリリサも、美花莉が気付いたことに気付き、むしろ奥村への思いを語って欲しいと促す。

これは元々この作品がその初めから、奥村の「オタクたるもの他人の好きを否定しない」というポリシーを表明していることの現れで、リリサは美花莉の奥村に対する好きを否定しないというわけである。

ここで「恋敵を牽制したいわけではない。これまで誰にも語れなかった恋を友達と話したかっただけなのだ」というような美花莉のモノローグが入る(これは隠れオタクがなかなか自分の好きなことを共有できないこととパラレルなのだろう)。すわ恋愛か友情かとなりそうな展開の中で、そういう二項対立をズラすように「恋を語れる友だち」への美花莉の思いが出てくるのがグッとくる。

つづけて、美花莉が奥村のことをよく知っていると感心するリリサに対して、美花莉は、好きだからよく知っているのではなく、むしろ嫌いになるために観察してきたと語る。嫌なところも沢山知ったのにそれでもなお好きでしかいられない、絶望的な恋だったのだ、と。

鈍感主人公に対する片思い幼なじみ、というある意味でテンプレキャラなのだが、「10年待ったんだもん」「友達と話したかった」「絶望」という激重っぷりとそれに対する(全面的ではなく部分的なものであるが)カタルシスを繰り出してくる展開で、一連のシークエンスはすごくいいと思う。

わりと感動的なシーンなのだが、これに対するリリサの態度をどのように捉えるのかが難しい。

「これが恋愛感情かどうかは分からないが」と断りながら、リリサもまた奥村への好きを語る。これに対して美花莉は、リリサが奥村を漫画のキャラクターについて語るかのように語るのに違和感を覚える。「先輩は漫画のキャラじゃないよ」と。

しかしリリサは、人間とキャラクターを同じように捉える感覚を肯定する。そうでないと、リリエルを好きでいつづける奥村のことも否定することになってしまうから、と。

さらに、リリサは美花莉に対して「私たち、先輩オタクですね」といい、美花莉から笑われるという下りもある。

リリサ(や奥村)は、過度に二次元にのめりこむキャラクターとして描かれているが、オタク讃歌であるこの作品において、その点が否定的に描かれることはまずない。ここでのリリサの態度もネガティブなものとしては描かれない。しかし、ここに美花莉とリリサの「奥村への好意を語るやり方」に微妙な差異があることは示されているように思う。

リリサが「先輩オタク」という時、それは「先輩のことが好きな者同士」という程度の意味合いで使われるのだろう。しかし一般的には、Aさんへ恋心を抱く人のことを「Aオタク」とは呼ばない。

今後物語が、キャラクターへの愛と実在の人間に対する愛とを、同一視する方向で進んでいくのか、あるいはその差異に注目する方向で進んでいくのかは正直分からない。実際、このシーンも、差異を示す意図は特にないのかもしれない。

ただ、ちょっと気にかかっているところではある。

リリサの二次元へののめり込みは、もちろん否定的には描かれていないものの、オタクとしてもかなり極端な部類として描かれているところはある(リリエルはSNSをしないのでレイヤーとしてSNSはやらない、リリエルは(市販のペットボトルや水筒などで)水を飲まないので夏コミで水を飲まない、アリアがコスプレしたリリエルに対してかなりマジトーンでリリエルとして話しかけるなど)。

あとあと、奥村との関係をはっきりさせる段において影響してくるのではないか、と。



で、これだけでも合宿編はなかなか濃いのだが、さらなる続きがある。

実はこの一連のくだりを奥村本人が聞いているのである。

しかし奥村は美花莉に対して1ミリも恋愛感情を抱いておらず、彼女の気持ちに応えられないと悩み、まゆり先生に相談する。

(一方、奥村は出会った時からずっと「美花莉は可愛い」とは思い続けている)

ここでまゆり先生は、告白はゴールではなくむしろスタートなのだ的な話を奥村に対してしている。運命の人と出会うのではなくて、好きと言われてから好きになっていくこともあるのだ、と。

これも今後どうなっていくのかよく分からないところだが、美花莉ルートの可能性もありうることが示されたことになる。

ところで、実は自分はハーレムラブコメものって『ラブひな』くらいしか読んでないので、正直ジャンル全体がどうなのかはよく分からないのだけど、少なくとも『ラブひな』は「運命の人」(約束の女の子)というのがとても重要なテーマだった。『ラブひな』もまた、恋の相手は運命の人でなくてもいい、ということを描いてはいるのだが、それでも運命の人概念に翻弄されることでドラマを描いていた作品だったかと思う。

合宿編の奥村周りの話は、物語的にはあまり進展がないものの、この作品を今後このように進めるのだ、という注意書きのようなマニフェストのような感じもしてくる(「鈍感で相手の気持ちに気づけない」ことによるドラマ作りはしない、「運命の人と結ばれる」というドラマ作りをしないなど)。

また、こうした奥村側の課題設定が、即座にリリサの考え方と矛盾するわけではないものの、今後、奥村とリリサの関係が変化することがあった場合にこのあたりの考え方の差異でドラマを生じさせる可能性もあるのかもしれない。

 

(ところで、まゆり先生は上のようなアドバイスをした背景に、レイヤーである同性の友人から恋の告白をされた経験があるらしい)



四天王と冬コミ

 

さて、満を持して四天王の話をしよう。

本作には、コスプレ四天王という4人が登場する。

具体的には、753、まゆら、淡雪エリカ、星月夜姫であり、それぞれにタイプが異なる。

753は、現在はプロのレイヤーとして活動しており、あらゆるイベントに参加し、仕事として数多くのキャラクターのコスをしている。初登場時、キャラクターへの愛がなくともコスプレはできると言い放ち、リリサにショックを与える。

まゆらは、その逆に、ラスタロッテというキャラクターのコスのみをし続けたレイヤーなのだが、突然に引退した(就職のためにコスプレを辞め、主人公たちの高校に着任した)。

淡雪エリカは、完成度を極めるため年に1度夏コミにしか現れない。登場はしたものの今のところ詳細不明。

そして、冬コミ編でメインを張るのが、星月夜姫である。

夜姫が、これまで出てきた登場人物たちと一線を画すのは、まずはそのビジュアルである。trickenさんが以下のようにツイートしている。

これまでの主要登場人物が美少女・美女として描かれてきているのに対して、夜姫はそのようには描かれていない(なお、いわゆる不細工とは描かれ方がまた異なるように思われる)。

彼女は、いわゆる承認欲求を満たしたいがためにコスプレを始めたが、テキトーなコスプレをしていた活動初期に炎上を起こしたため、その後人気が高まった後もアンチを多く抱えるレイヤーとなっている。自分は「悪いコスプレイヤー」だと嘯きながら、SNSにいいね目的の下着画像を投稿し、アンチから叩かれれば叩き返して燃料投下する日々を送っている。

そんな彼女なのだが、753との関係が面白い。

互いに罵りあいながらも友人関係を維持している(753のマネージャー曰く「2人を会わせてはいけない/話が長くなるから」と)。

実のところ753は、夜姫のことを「悪いコスプレイヤー」だとは思っていない(おそらく、まゆりも同様)。夜姫には夜姫なりのコスプレ愛があること(炎上後本気でコスプレをするようになったこと)を753は知っているが、夜姫が悪として振る舞うならばそれに付き合ってあげよう、というのが753の友情なのである。

一方で753は、リリサが自分の初心を思い出させてくれたように、リリサが夜姫によい変化をもたらしてくれることを期待している。

「闇落ち」している友人によい変化が起きて欲しいが、自分にはそれを起こすことができない、せめて自分はそれに付き合ってあげるだけだ、という753の友人としての距離の取り方がツボだった。

これに似た話を絶対どこかで読んだことあるんだけどなーと思いつつ、思い出せない。

次点として、ナナシスの4Uを挙げたい。アイドルを憎むようになったウメに対して、エモコはその憎しみに一緒に付き合ってあげる道を選ぶ。ウメのネガティブな感情は、ハルとの出会いにより解消される。エモコも、ウメのその変化をよく思っているわけだが、自分ではその変化を引き起こせなかったとおそらく思っているのだろうと思う。

うーん、たぶんナナシス本編ではエモコのウメに対する内心はここまでは描かれていなくて、二次創作でこういうのを読んだような気がする。

 

閑話休題、753だが、上述の通り、彼女はキャラクターへの愛がなくてもコスプレができると言って登場してきた。

ところが、冬コミ編では、誰よりも熱いキャラクター愛のこもったコスプレを披露する。

作中で覇権コンテンツとなっているソシャゲ「マジョ娘」で、753は、いわゆるエサキャラが最推しで、誰よりもやりこんだ結果、誰も存在を知らなかった隠しレアをゲットし、そのコスプレをするのだ。

(なお、753は不人気キャラを推しがちっぽい。夜姫は途中で死ぬキャラを推しがち)

見開きで描かれる「オワリノハジマリノマジョ」コスの登場シーンは、まさに最強キャラの風格を漂わせる圧倒的なシーンで、さらにコミケ史上最大の囲みを実現させることで、その「強さ」を見せつけている。

このシーンの前後の脈絡を確認しておきたい。

元々、リリサたちはマジョ娘併せをするのだが、1人人数が足りておらず、現地で見つけようという話をしていたところ、まさに夜姫がそのキャラのコスをしていたことが分かる。

リリサたちは夜姫と併せをしようとするが、誰よりも多い承認を求める夜姫は併せを拒む。

そこに現れたのが件の753で、夜姫を囲んでいたカメコを奪い取っていく。

結果的に夜姫はリリサたちとの併せを行うことになる。

753は、四天王の中では一番最初にリリサの前に立ちはだかった壁である。コスプレ漫画なので、倒した・倒されたみたいなことはないのだが、バトル漫画の展開に喩えるのであれば、753は既に一度倒された敵キャラで、その後敵でも味方でもないけど味方寄りのポジションになる、みたいな位置づけができるわけだが、むしろここでは、リリサたちはもとより、別の四天王である夜姫も圧倒し全てを「駆逐」する強キャラとして再登場してくる。

かつてキャラクターへの愛がなくてもコスプレはできると言い放ったキャラが、キャラ愛を全開にすることで誰よりも強い存在として再び現れてくる、というのなかなか熱い展開だと思う。バトル漫画っぽいと言われるゆえんかなと。

753という人の別格感は、るいべぇさんもツイートしている通り、他の四天王と比較しても、コスプレ全体のことを考えている公的なところがあって、そこからもつながっているのかなと思う。

 

 

次に、753の衣装担当であるサイトウさんについて話したい。

「オワリノハジマリノマジョ」コスを作製したのも、このサイトウさんである。

サイトウさんは、リリサの自作衣装を評して「あれは「服」ではなく「コスプレ」です」と言うのだが、これについて少し話したい。

まず、リリサたちの衣装はほぼリリサによる自作であるが、これまでリリサが徹夜で作っていることや再現度の高さなどは触れられていたが、詳しい評価はなされていなかった。

サイトウはまず、プロであればやらないような作り方をしているという。具体的には、コスト面で割に合わないことをやっていると(別のシーンで、ヒートテックやストレッチ生地が使われ、着心地がよくなっていることが乃愛やアリアの弁として述べられている)。

そして、自分たちプロが作るコスプレ衣装は、場合によってはその日限りで壊れても構わない作りをしているのに対して、リリサは、そのまま日常生活を送れるかのような作りをしていると述べ、まるで世界そのものを再現しているかのようにと論じた上で、上述の「あれは「服」ではなく「コスプレ」です」という評価へと至るのである。

ここのくだりは、リリサのコスプレ観が精神論のレベルではなく物理的なレベルで解説されるシーンであり、謎理論+謎説得力がバトル漫画の解説シーン風味を漂わせているところである。

「あれは「コスプレ」です」と服飾のプロであるサイトウから言われると、プロとしての753・サイトウチームと、愛だけで突き進むアマチュアであるリリサらとの対比もあり、説得力を感じてしまうのだが、よく考えてみれば謎である。

というのも、普通に考えれば、1人で着ることができなかったり、1回着て壊れてしまう衣装よりも、日常生活で継続して着れる衣装の方が、よほど「服」ではないだろうか。

日常生活で着れるようにできている、ゆえに「服」ではない、というのかなり謎論理なのだが、それを言い切ってしまうあたりもバトル漫画解説っぽい感じがある。

(また、リリサが「オワリノハジマリノマジョ」コスを見て、753が腕を上げる際、衣装が壊れないように見えないところでかなり無理な姿勢をしているはずだと指摘しており、サイトウの作る衣装が、普通に腕を上げることすらできない衣装であることが示されている)

(一応、もう少し考えるならば、二次元の服飾デザインがそもそも非現実的であり、それを立体化しようとすると本来「服」にはならないのであり、それをプロなら採用しないような手法でもって無理矢理に再現していることを「コスプレ」と評しているのだ、ということで理屈を通すことは可能ではあるが)

さて「オワリノハジマリノマジョ」コスであるが、上述の通り、プロならば愛がなくともコスプレができると言った753が、最大限のキャラ愛を表現したコスであったが、サイトウにとっても、プロとしては作ることができない、己の趣味をつぎ込んだ衣装となっている。2人はこれを「プロの趣味(あそび)」と述べており、リミッター外すとここまですごくなるんだぞオラ、というこれまたバトル漫画的にテンションあがるシーンでもあり、一方、サイトウが封印していた初心に報いるようなエモいシーンともなっている。

このあたり、主人公たちとは世代が異なるがゆえに可能となっているシーンで、世代によってコスプレへの向き合い方が違うということを表現できていてよいなーと思う。

さて、この衣装の作り解説は、リリサから夜姫の衣装にも向けられる。

曰く、夜姫の衣装に2種類の縫い目があることを見抜き、既製品の衣装に自分で修正を加えており、それだけコスプレへの思いが強い人なのだとリリサに思わせるのである。

キャラへの愛とかレイヤーとしての強さ(?)とかを、物的証拠(?)によって表現するのがまた、バトル漫画風味なのかなあと。

(考えてみれば、リリサのレイヤーとしてのすごさについても、「ポーズをたくさん覚えている」と解説していたりするのも、同様か)

 

ののぴのこと

 

ののぴというのは、乃愛(コスネーム:ノノア)にアリアがつけたあだ名

笑わない氷の美少女として登場したが、単にコミュ障だっただけということが明らかになり、リリサと親しくなってからはすっかりゆるキャラ化していき、デフォルメ状態で描かれることの方が多い。

「オム!オムだよー!」あたりから、好きになった。

ゆるキャラになっているののぴが好き

 

ギャグについて

オタクあるある的なネタによるギャグ・コメディ要素も結構強い。

奥村・リリサ・ノノア(後にまりなもこれに加わる)のオタク組が暴走し、美花莉・アリアの非オタク組が呆れたり、ツッコミいれたりするというような。

その中で一番笑ったのが、架空のアニメ物真似クイズ

架空のアニメのキャラの物まねをして、それを当てるというクイズを、奥村・リリサ・ノノア・まりなが即興で始めるというもの。

これが「あるある」かどうかは分からないし、自分もこんな経験はしたことがないが、奥村の物まね見てリリサとノノアが「船が沈むときに艦長と残ろうとする乗組員だ!」っていうのが「分かる」のが面白かった。

オタクネタ、ともすれば時事ネタとなってしまうが、このネタは古くならなさそうという感じがする。

 

追記

大した話ではないのだが、美花莉に対して「情緒!」とツッコミが入るシーンが何度かあり、最初よく意味が分からなかったのだが、途中で「情緒不安定か!」という意味のツッコミなのかと気付いた。